やばい。講義の時間が迫っている。私は次の電車に乗り学校へ向かった。
大学の門をくぐった瞬間、肩をポンと叩かれた。その軽い衝撃に振り返ると、明るい笑顔の優香が立っていた。
「お早よーっ!」
彼女の元気な声が朝の疲れを吹き飛ばすようだった。私は少しぎこちない笑顔を返しながら、「ぁ、お早よー…」と挨拶を返す。
「あれ?どうしたの?元気無さ気じゃん!」優香は私の顔をじっと覗き込むようにしてきた。
「ううん、そんなことないよ」と言いながら視線を逸らしたが、優香は追及をやめなかった。
「もしかして…朝から痴漢に遭ってブルーになってるとかっ!」
「…っ!?…ちょっ!…ま…さかっ!…冗談キツいよー!」
動揺を隠すように声を上げて否定するが、その言葉に心が跳ねたのを感じた。優香の冗談めかした推測が図星だったからだ。
「えー、なんか怪しい!顔が赤いしー、バレバレだよ?」
彼女は楽しげに笑っているが、その無邪気さが妙に胸に刺さる。どうして朝の出来事をこんなにも簡単に見透かされてしまうのか。
「もう優香ったら、ほんとにやめてよー…!」私は笑いながら話題を変えようとしたが、胸の奥でくすぶる感情は、まだ整理しきれないままだった。
講義が始まるまでの時間、私は優香とカフェテリアに向かった。適当に飲み物を買い、席につくと優香がじっと私を見つめてくる。
「で、ほんとのところ、何かあったでしょ?」
「何もないってば」
「ふーん…じゃあ、昨日の夜とかどう?なんかいいことでもあった?」
その言葉に、昨夜の出来事が不意に頭をよぎった。ピストンバイブがもたらした快感、そして自分がどれだけ深くそれに没頭していたかを思い出す。思わず顔が熱くなり、優香の視線から逃げるように飲み物に口をつけた。
「えー、何その反応?なんか怪しい!」
「だから、何もないってば!」
言い合いのようなやり取りが続く中で、優香の言葉が心に引っかかる。「昨日の夜」。そのフレーズが私の身体を熱くさせたのだ。
優香との会話を続けるうちに、私は自分の中で抑えられない感覚があることに気づいた。朝、トイレの中での出来事。そしてそれが引き起こした衝動。
「もしかしてさ、彼氏とかできた?」優香が突然真顔で尋ねた。
「えっ!?なにそれ!全然違うし!」
「そっかー。でも、なんか雰囲気変わったよ?昨日の夜、何かあったんでしょ?」
優香の言葉に、私は思わず視線を落とした。心臓がバクバクと鳴り、胸の奥がざわめく。
「何もないよ。ほんとに。ただ…少し疲れてるだけ」
自分でもぎこちないと思うくらいの言い訳だったが、それ以上優香は追及してこなかった。ただ、最後に彼女はこう言った。
「…まあ、何か話したくなったらいつでも言ってよね」
その言葉に、私は少しだけほっとした。だけど、同時に自分の中でくすぶる欲望の火種が、消えることはなかった。